インドへ行くか行かないか/どうやって決めたらいい?

やるべきか、やらざるべきか。問題はそれだけだ。W.シェイクスピア 『ハムレット』

私はちょくちょく、若い人たちから旅行についての相談を受けます。
このあいだも、インドに行こうかどうしようか迷っている方から
連絡をもらいました。

他人の悩みは、学習のネタとしてこの上ない(笑)
ここに共有させてもらいます。

ざっとこんな感じです。

1.行くべきか、行かざるべきか

Cさん(20代女性)のお悩み
インドに行こうと思ってるんです。
添乗員付きのツアーに一人での参加を考えてます。

ところが、調べれば調べるほど
「行きたくないな」って思ってしまう私もいて、
正直行くべきか悩んでいます。

行ったことのない人にとって、インドというのはやっぱり少し
身構えてしまう国です。

私も初めての時はすごく緊張したし、
いろいろ心配(というかほぼ恐怖に近い)だったので、
気持ちはよくわかります。

「行きたいけど、行きたくない」

妙な話のようですが、
旅行先選びではしばしばあるケースです。

フィリピンとか、南米あたりを考えるときにも
出てきそうな話ですね。

最終的な結論としては、
行くか行かないかの二つに一つです。

自由旅行なので、それはどちらでもいい
本人の考え次第です。

ただ、行くにせよ行かないにせよ、
その結論に至るまでの道筋をちゃんとしておかないと、
あとで後悔することになります。

こんなとき私なら、
こういう手順で検討していきます。

2.避けられるか避けられないか

行きたいという気持ちは山々ながら、
「よし行こう!」という決心をするまでの道筋に
立ちふさがる不安がある。

で、躊躇が生まれてしまう。

要はその不安の元となる問題が

避けられるものなのか、
それとも
避けられないものなのか、

それによって選ぶ道が決まります。

問題を避け、不安を解消するためには対策が必要です。

事前に考えたその対策が、
現場でうまく機能するかどうか。

その対策を用意しておくことで、
自分が安心感を得られるかどうか。

対策が考えられて、
いくらかでも安心できるようなら、
結論は「GO」です。

もし対策が考えられない、
つまり、「避けられない」と感じる問題なら、

それを受け入れられるか、
受け入れられないか、

が焦点になります。

「嫌だけど、困るけど、受け入れよう」という腹をくくれるなら「行く」
「これは無理。受け入れられない」なら、「行かない」

シンプルですが、そういうことです。
まとめるとこんな感じですね:

3.考えられる限りの不安を並べること

判断の方法自体はシンプルですが、
この不安というのは決して一つではないはずです。

大事なのは、それらの問題を
ぜんぶ目の前に並べてみること。

枚挙」という作業です。

で、並べ上げた不安を、一つずつ順番に、
上の方法でふるいにかけつつ吟味していきます。

すべてが「行く」に落ち着いたなら、
ほんまに行く。

一つでも「行かない」が出たら、
今はやめといた方がいいでしょう。

休みを使って行く旅行です。
別に今どうしても決行せねばならないという話じゃない。

今は見送っても、
また行きたくなったら、またいつでも検討しなおせばいい

昔、バックパッカーの間では
「インドに呼ばれる」
という言い回しがありました。

これは、実際のところ呼ばれても何でもない旅行者が
単に自分が好きでインドへ行くときの
口実みたいに使われてました(笑)

これ、裏を返せば、
「自分は行かないんだ」ということの理由づけにも使えます。

度胸が決まらないうちは
「私はまだ呼ばれてないんだな」
と思って流しておけばいいんだと思います。

さて、この枚挙というのは、
すべていちいち書き出す形でやるのがいいです。
付箋に書き出すのがベスト

スペシャルな頭脳の持ち主なら、
頭の中の暗算だけでできるかもしれない。

でも、そんな優れた脳力の持ち主でない限り、
手間を惜しまず手を動かした方がいいです。

行くか行かないかを決める大事な作業。
必要な時間と手間はかけましょう。

この手続きを何となく、ほわっとした感じで
流してしまう人が本当にたくさんいる。

そんな状態で決めてしまうと、
いつまで経っても自分の下した決定に満足できず、
ほんまにそれでよかったのかなあ
と後々まで引きずることになります。

行く/行かないの結論は、
実はどちらでもいいんです。

本当に大事なのは、
自分の決定に納得できること

これができてないと、
いくらでも後悔が生まれてきます。

4.ケーススタディ

Cさんの場合、
「調べれば調べるほど行きたくない」と感じさせる不安とは一体何なのか、
具体的に出してもらいました:

Cさんの不安
(1)1日歩き回ったら服がすごく汚れるらしい
(2)野良牛や犬がうようよいて、糞も落ちてるから靴も汚れるらしい
(3)行くと必ずお腹を壊すらしい

これ聞いて正直、
「これくらいやったらつべこべ言わずに行けよ」
という感じも持ちましたが(笑)、

「避けられるか、受け入れられるか」は
純粋に本人の問題なので、
私には判断できないことです。

まあざっとした考え方はこんなところでしょう:

(1)
インドはほこりっぽいから、服は汚れますね。

■ 汚れてもいい服で行く
■ 街歩きをするときだけ雑な服を着る

でいくらか安心できるなら「行く」です。

いくらかでも汚れることが、どうしても受け入れられないなら
「行かない」でいいんでしょう。

(2)
野良牛や犬は確かにいますが、
どの街にも「うようよ」いるわけでもない。

■ 動物の少ない街を選ぶ か、
■ 汚れてもいい靴を履く か。

このあたりで大丈夫そうなら「GO」

(3)
「必ず」お腹をこわすってこともないでしょうが、
こわす人は多いです。

■ お腹をこわしてしんどくなることも覚悟する
ことができればOK。

■ 危なそうだなと感じたものは口に入れない
でも、かなり避けられると(私は)思います。

要はそれでCさん本人が安心できるかどうかですね。

ほかにも「対策」はいろいろあるはずです。

他人には通用しない、本人ならではの策もあるでしょう。
そういうのほど安心感は大きくなるかもしれません。

5.隠れた「本当の問題」を掘り出す勇気

この手法はいわば、
ロジカルシンキング(論理的な考え方)を応用した
状況の整理です。

ロジカルシンキングっていうのは
ビジネスシーンなどで割ともてはやされるようですが、
これは方法として「すごくない」ことが値打ちです。

名人芸でも天才的なスゴ技でもなく、
ある程度のトレーニングさえ積めば誰もが使える
当たり前の方法だというところに価値がある。

ロジカルシンキングとはそういうものです。

つまり上のやり方も、
目を見張るほど斬新で鮮やかな結論が生まれてくるわけじゃない

当たり前の結論が、当たり前に導き出されるだけのことです。

ただ、この当たり前の整理手順を怠ると、
当たり前の結果すら手に入らなくなります。

あまりバカにせず、迷った時はやってみるといいです。

旅行先を選ぶとき以外にも、使えます。

あと、この「枚挙」という作業はけっこう骨が折れます。

一つ残らず数え上げるというのがポイントなのですが、
どうしても書き出されずに漏れてしまうことが出てくる。

Cさんの場合は、自分の中にあるものを私に伝える立場なので、
パッと出てこなかったことや、
言葉にしにくいことは、省かれているかもしれません。

でもそういう「パッと出てこないところ」にこそ、
踏み出そうかどうしようかを迷わせる、
本当の原因が隠れていることがあります。

旅行の話題に限らないことですが、
たいてい相談者っていうのは、
自分の中にある「本当のところ」を隠してきます。

もちろんわざとじゃないんですが。

ゆっくり話を聞きながら、やりとりしてるうちに、
だんだん本当のところがわかってくる。

まあそりゃそんなもんですわね。
自分が相談する側の立場になって考えたら。

Cさんの4つの「問題」の背景にも、
ひょっとすると、

「このほかにもっと、何かあるのかもなー」

という匂いが、何となくします(笑)

自分一人で書き出してるときでも、
こういう(やや)無意識の書き漏らしが
よく出てきます。

自分自身に対してさえも
目に見える形には出したくない、
フタをしたまま置いときたい感情というのが、
人間にはありますから。

そのへん、自分自身相手とはいえ、
あまり無理してこじ開けることはありません。

とはいえ、本当の(ところに近い)問題に切り込んでいくことができれば、
それだけ正確な判断も下せます。

しんどくない範囲で、
根気よく、
掘り下げていくことです。